いろはに金平糖ちりぬるを

読んだ本・見た映画の備忘録

なんというか見やすい映画『ドクター・スリープ』

ティーブンキングはキューブリック監督の『シャイニング』を全く気に入っていない、原作はもっとシャイニング=超能力に焦点が置かれている、という話がもうソース確認せず事実扱いしていい常識という感じになって久しいが、これに加えて『ドクター・スリープ』はキングもニッコリうんうんこれが俺が書いた話だよ的に言ってるらしい、というのも流れてきた。

『シャイニング』はやっぱり面白いしカッコ良かったからまあ世間の風評も込みで続編も観たいなあと思っていたらいつのまにか劇場で公開され、コロナで世間がバタバタしたり自宅にこもっていたら公開が終わり、アー…と思っていたらいつのまにかNetflixに流れてきていたので無事観ることができた。ありがとうNetflix、クレジットを見ている時におすすめ作品を問答無用で介入させてくるところは死ぬほど許せないがこういうときだけは入ってて良かったと思う。Netflixって基本的に最高の作品みたいなのはそんな無くて平日夜の時間があるときに適当な温度でなんか観ますかねって時にちょうどいい作品が多い印象がある。そしてドクター・スリープはまさにそういう感じの作品だった。

かなり失礼な言い方になってしまうんだけど、良くも悪くも見やすくて、凡作という言葉がしっくりくる。

・冒頭で前作のメチャクチャ怖かったババアが即対処されてて絶叫しながらやられてるところ、笑ってしまった。あまりにもあんまりな扱いじゃないですか。思わずこれが俺たちの前作への態度ですってことなのか?とつまらない勘ぐりをしてしまう(こういうつまらない勘ぐりを許す感じが凡作っぽいというか)。箱のことを良く知るんだ、中も外の模様も…ってセリフがあるからダニーが自分の力をコントロールするための修行パートが来るのかと思ったら即使いこなしてて、ダニーが規格外の強キャラということなのかそんなことに使う尺はねえよということなのか…という気持ちになった。

・ヒッピーって今の時代でも怪しい奴らのイメージに使いやすいものなんだな…というか2000年代くらいでヨガとかなんらかのパワーみたいな話や“繋がり”“絆”みたいなキーワードが盛り返してきて不思議な共同体という存在がまた出てきたから再利用できる感じになったのかな。敵のローズ、被ってる帽子のせいか微妙にマイケルジャクソン感がある。長老は弱ったジョブズ感。

・冒頭からもう前作とは完全に違うというのはわからせられてるんだけど、ローズたちの目が光ったシーンで「もう本当に違うんだな」という気持ちになった。あの演出って今でもアリなんですね。

・ダニーが断酒のAAに参加して同じ悩みを持つ女の子とも知り合って他者との交流で人生全体が改善して人のために力を使えるようになったよって話のライン、今のトレンドというかすごくスタンダードにのっとった正統な作りですね。

・ビリーいいやつすぎねえか!?「俺を何に巻き込んだ?」のシーン気の毒すぎるだろ。夜明けに叩き起こされて悪夢みたいな話聞かされて挙句あんなもん見せられて…。でもショック受けててもヘッドショット決められる腕なのは笑った。しかしこの作品の中で唯一心技体揃ったパーフェクト超人があんな凡ミスで死んでしまうの悲しすぎるだろ。だからこそいなくなる必要があったんだろうけど、一番脚本の都合でやられた感があってそこもうちょい仕方ない感じでやられて欲しかったな…と思った。ダニーを助けるとみんな死んじゃう。前作のおじさんと違ってそこまでの覚悟がある感じでもなかったし。

・アブラとダンが黒板を介して話をするのはほのぼのしたシーンだけど、この人たちはいきなりこんなことが起こっても笑顔でやりとりできる程度に異常な出来事に慣れているんだなあ…あと会話は一往復で終えて相手のこととか聞かないんだ…とは思うがまあシャイニングを持つもの同士はそんなもんなのかもしれんな(適当)力を使うのを嫌がってるダンと使い方を知らんアブラだから最初は相手を知ろうとしなかったのかもしれんが。

・アブラが規格外に強いけど子供で経験がなく詰めが甘いところはわりと良かった。その分ローズをぶっ飛ばすシーンとかは気持ち良いし。意識に入ってこようとしたローズを返り討ちにするシーンのアブラの代理のフィギュアが立ってる場面、自分の優位を信じていたローズもこういうショックを受けたのだろうな…というのが感じられて良い。

・クロウはシートベルトさえしてれば死なずに済んだのに…ダニーの機転で一発逆転て感じのシーンなんだろうけどあまりにもしょぼい死因で笑ってしまった。

・最後の決戦〜アブラとダニーの対話のシーンあたり、日常的な感情だけで理解できるお話になっているあたりが本当にこの作品は全然別人が撮ってるんだな〜というのをひしひしと感じる。ホテルに行くあたりから前作の有名なシーンが使われているが、使ったから…何だ?っていう感じで、全然緊張感がないしワクワクするわけでもない。特にホテルに向かう際の空からのショット、前作のあの音楽もかかってるのに全く不気味な感じも何もなく…ここまで脱色できるのすごいなという感じがある。やっぱり監督によって変わるんだな…なんか血の吹き出す場面とかも何もかも含めて、「出しときました!」感がすごい。ファンサービスというわけでもなく、ただ知ってるシーンが出てきたというそれだけで、今作の画面のカッコよさを補強するでもなくホテルの怪異に怯えない登場人物たちが魅力的に見えるわけでもなく…。

この「こんなに違うんだ…」感、2016年のNHK紅白歌合戦を思い出してしまう。シン・ゴジラNHKが紅白仕様にしたやつ。出演者もちゃんと同じ人だしNHKのスタッフや機材はちゃんとしてるはずなのに、廊下を歩いてるシーンが全然カッコよくなくてびっくりした。たしかにシン・ゴジラはなんか全体的にかっこいい気がするけど私が庵野秀明の名前に飲まれているだけかな…と思っていたのに、NHK版を見てこんなピリッとしないシーンあんのかい!!!!?という悲しい形でシンゴジってちゃんとかっこよく見えるようにしてたんだな…という再確認をしてしまった。

シン・ゴジラの話になってしまったが、要は平日の夜に時間がある時に見るのにちょうどいい温度感の、駄作ではないといった感じの映画。前作が理屈がよく分からない恐怖がめちゃくちゃかっこいい画面と共にダニーを襲う!!!という感じだとすると、その真逆の、登場人物たちの心情や行動の動機がめちゃくちゃわかりやすく納得のいく話とまあまあの絵が私たちを楽しませてくれる!!!という感じの仕上がり。いや本当に馬鹿にしているわけではなく。普通だけど悪くない。普通の映画。